田中角栄 BOOK RECOMMEND

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さて、田中角栄について五回にわたって連載してきました。

 

読みづらいところがおおかったなーと反省してます。また、いつの日か再チャレンジしたいと思っているので、こんかいの経験はそのときに活かそうかと。

 

それでは、私見もまじえて総括しますかね。えーっと、そのまえに今回おせわになった著書がこちらです。

 早野透さんという方が書かれた本。その名もズバリ、『田中角栄』。中公新書ですね。千円ちょっとで買うことができます。

 

早野さんは朝日新聞の記者で、角栄の首相時代から死ぬまでを近くで見続けてきたひとです。

 

内容はかなりヴォリューミーで、読後感は厚めのハードカバーを読みきった後のそれに匹敵。新書のアッサリ感はありません。本格的。まあ、質・量ともにしっかりとした本を安い値段で買うことができる、というメリットでもあります。

 

なにぶん古い時代のことをあつかってますからね。ひとの名前にはじまって、いろいろな事件、地名、法律の名前がでてきます。それらは、だいたい馴染みがない。ぼくはなんにも知識がなかったので、けっこう調べながらよんでました。

 

すでに戦後日本の歴史、とくに政治についてひととおり頭にはいってるひとはスラスラと読めるかと思いますけど、ぼくのようになんにも知らないひとにはすこしキツイかもしれません。

 

戦後日本政治史としても読むことができます。信頼できる一冊。オススメです。

 

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さて、それでは総括を。

 

もともと、ぼくが田中角栄に興味をもったのは、さいきん、本屋さんにいくと田中角栄にかんする本がたくさん置かれていたからでした。なんで、いま、田中角栄なんだろうかと。

 

あと、個人的になんですけど、半藤一利さんの『昭和史』という本を読んだんですね。これは上巻が1926ー1945まで、下巻が1945ー1989までを扱った本なのですが、下巻のほとんどは1960年ころまでの内容です。

 

タイトルに偽りありっ!そう思いました。でも、内容的にはいい本ですよ。

 

それで、ぼくの頭のなかは、1960年から90年くらいまでの日本の歴史がすっぽり抜けた状態だったので、それを埋めたいなーって思ったんです。

 

 そのためには、田中角栄にかんする本を読むのがいいだろう。そう考えて調べはじめたんです。これはそれほど見当はずれなことではありませんでした。

 

けっきょく、どうして、いま、角栄なのかっていうことは分かりませんでしたね。自分なりの仮説もたてがたい。

 

石原慎太郎が角栄にかんする本をだしたから、ってことがおおきく影響しているのかなあ。よく分かりません。

 

角栄はカネで政治をうごかしたひとです。選挙をするにもカネ。人にお願いするにもカネ。カネ、カネ、カネ。いまどき、こんな政治のやり方したら、総バッシングでしょう。角栄を懐かしむひとが、まさか、この金権政治を懐かしんでいるとはおもえない。

 

「ああ、ワイロがたくさん飛び交って、いい時代だったな」そんなこと、思わないでしょう、普通。

 

もちろん、カネだけではなくて、情に厚いというか、義理堅さを感じさせるひとでもあります。おおくのひとが魅了されたというのもうなづける。

 

総理大臣の雰囲気じゃないんですよね。田舎のおおきな土建屋の社長、そんな雰囲気です。実際、角栄は土建屋で成功して、そのお金を足がかりにして政界に進出していますから。最後まで、この土建屋の気質はもちつづけた感があります。

 

角栄自身、総理大臣はとっても窮屈だったって言ってます。自分に合っていたのは、自民党幹事長だったと。

 

ぼくもそう感じます。総理大臣は外交とか軍事とか、国内だけでない、国外のこともかんがえなきゃいけない。でも、角栄の中心テーマは国民の「生活」です。道路をつくったり、河川を整備したりする。新幹線、高速道路をつくって、そうやって日本全域を発展させる。

 

そこに興味が集中している感があるので、総理大臣の職は合わなかっただろうなと。

 

義理人情にうったえる部分も多いので、そういう手法はアメリカとか西欧の連中には通用しなかったんじゃないかな。中国はちょっと違うと思いますけど。

 

学歴は小学校高等科卒。まわりの連中は官僚も政治家も東京帝国大学卒ばっかですからね。

 

ある種の出世物語を懐かしんでるのかなあ、角栄をなつかしむひとは。

 

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それでは、視点を切り替えて、角栄が政治家だった時代を生きてない、若い世代にとって、角栄について知ることに有益な点があるか、どうか。

 

これはありますね。

 

たとえば、郵便局。

 

角栄が郵政大臣だったときに、特定郵便局二万局拡大構想っていうのをぶちあげるんですよ。まあ、言ってしまえば、国民に郵便局に貯金させて、そのカネをもとに公共事業を実施する、そういうことです。

 

この特定郵便局っていうのは、その地域の「名士」みたいなひとが局長をやってました。顔がききますからね。この特定郵便局を起点としたネットワークは自民党の集票マシンと化しました。

 

日本人の貯蓄癖、あと、どうしてこんなに郵便局が大量に存在するのか。そのあたりのいきさつが分かったような気がします。

 

あとは、政治家と有権者の関係。

 

角栄を支えたのは「越山会」っていう、新潟の県央から山間部にかけてのエリア、新潟三区とよばれていたところにネットワークをはっていた政治団体です。

 

この越山会では、選挙ごとに得票率を計算するんですね。で、得票率がよかった地域にはごほうびとして、公共事業が実施されると。得票率がわるかったところ、つぎはがんばってくださいねって感じです。

 

まあ、しょうがないと思うんですけどね。たしかに、社会党とか共産党みたいに、いつまでたっても実現するわけがない理想論きかされるよりも、現実的に、自分の地域にあたらしい道路ができたりするほうが、よほどありがたい。

 

有権者も投票しますよ、そりゃ。

 

ただ、ぼくが気になるのは、この構造は平成の時代がはじまって、かれこれ30年ちかくたつのに、なんにも変わっちゃいないってことです。

 

べつに、角栄を批判するつもりはありません。

 

ただ、角栄に象徴される、政治家と有権者の関係。有権者は政治家を支える代わりに、自分たちの地域、自分たちの業界に便宜をはかってもらうというこの関係。

 

いまは国内の「生活」よりも海外との「競争」にどうやって打ち勝っていくか、そのために資源を投下しなければいけないんであって、そういうことを考えて実践していく政治家が求められてるし、有権者もまたそういう政治家をえらぶ必要がある。

 

だから、いい加減、高度経済成長期に通用した、この政治家と有権者の関係をみなおすべきだ。

 

そういう意識をもつためにも、角栄という政治家がやったことをみておくのは無駄ではない、そう思います。